Hara Kazutoshi presents 着信アリーmy Love

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帰ってきたHara Kazutoshiのクラブレポート最前線 第10回「ラッパー探偵登場」

5年ぶりのニューアルバム『マイファミリー』をリリースしたMCヤスにインタビューをした。MCヤスと私は同じ地元の仲間ということもあり、今回インタビューというよりは友人同士の気ままな対談の様な形となったことを、読者諸賢にはご容赦願いたい。


──ヤス、久しぶり。今日はよろしく。
「ああ。ここ最近ずっと会ってなかったけど、お前がライターとして活躍しているのは知っていたよ。お前も昔は俺らとラップをやってたけど、やめて正解だったな(笑)」

──ははは。さて、5年ぶりの新作『マイファミリー』を聞いてまず感じたのは、大胆に新境地を切り開いたなと。前作の『リアルハスラー』がハードコアなストリートライフについてラップしていたのに比べて、今作の主なテーマは「家族」だよね。この5年間で、ヤスの中で変化したことがあったら教えて欲しい。
「この5年間で一番大きな変化は、結婚して家族を持ったことだな。特に去年、子供が生まれたことが大きかった。とは言え、俺は昔から身の回りのリアルな状況を歌っているだけで、『リアルハスラー』の時はハスリングについて歌うのがリアルだったけど、それが『マイファミリー』では自ずと家族や子供のことになっただけなんだ。つまり、周りの状況は変わったけど、俺のスタイルは変わっていないっていうか」

──なるほど。家族がテーマになるのは必然だったと。
「そう。あと『マイファミリー』というタイトルには家族だけじゃなくて、地元の仲間たちという意味も込められている。あの一件以来、今どこにいるのか分からない奴もいるけど、そいつらに捧げた曲もある」

──あの件は、昔から一緒につるんでた俺らにとっては辛い話だよな……。さて、トラックも前作と比べ……
「(話をさえぎる様に)いや、大事なことだからそのことについてはもう少し話したい。『リアルハスラー』は名義は俺のソロだったけど、プロデュースや客演は全部地元のクルーの奴らにやってもらった、いわば仲間全員で作り上げた作品だった」

──ああ、俺も1曲ラップするように頼まれたけど、レコーディングの時にボロボロで結局ボツになったよな。あれでラッパーの道をあきらめたよ(笑)
「『リアルハスラー』はインディーズでは異例のヒットを飛ばして、俺らのクルーは一躍有名になった。アルバムに参加していたメンバーもそれぞれソロをだして、当時俺の回りは最高に盛り上がっていた」

──あの時俺はもうラップをやめていたけど、仲間としてとても誇らしかったよ。
「そしていよいよクルーとしてアルバムを出す直前に、ヤサ(隠れ家)に突然警察のガサ入れが入った。その日の夜に大きな"取引"があったからヤサには大量のブツがあって、俺を含めその場にいたクルー全員が逮捕された。メジャー傘下のレーベルからリリースする予定だったアルバムも、それで発売中止になった」

──……。
「あの取引は限られた人間しか知らないはずだった。だが、そのことを知っている人間で逮捕されていない奴が一人だけいる。お前はあの時一体どこにいたんだ?

──……何を言っているんだ。俺がタレ込んだっていうのか?そんなことをして一体俺に何の得があるんだよ?!
「さあな。でもあの頃お前は、家に篭りがちになって集まりにもあまり顔を出さなくなったよな。自分以外の周りの連中が成功を掴もうとしている中、ラッパーの夢をあきらめ、将来に何のあてもなく部屋に一人篭って、お前は何を考えていたんだ?俺たちを妬み、憎んでいたんじゃないのか?」

そう言って、ヤスは容疑者を問い詰める刑事の様に鋭く私を睨みつけた。私は、そんなわけないじゃないか、と不自然なくらい相手の目を見つめ返しながら答えたが、背中を流れる滝の様な汗を止めることは出来なかった。
(GHOSTWORLD VOL.10)